シャーマンへの道「11 天河弁財天」
天河弁財天は東京から行くと思いのほか遠い。
京都で近鉄に乗継ぎ、橿原神宮前からタクシーで1時間半くらいかかった。
近鉄で下市口まで行く方法もあるが、今回は一泊だし、美味しいものを食べて、のんびりと旅をすることにした。
天河弁財天に到着したのはお昼をまわったぐらいだった。
春まだ浅い平日ということもあって、境内にはわたしのほかは誰もいない。石段を登りきると右手に神楽殿があり、その向かい側に立派な拝殿があって、三つの鈴を合体させたUFOのような形をした大きな鈴があった。
拝殿の前で弁天さんに意識を合わせると、宇宙的なぐわ~んと響くようなエネルギーが胸中に入ってくる。
弁天さんだ。
一般的に弁天さんは音楽や芸能、商売の女神といわれ、琵琶を持ったたおやかなイメージがあるが、わたしの知る限り女神というよりも両性具有でパワフルな力を持った神だ。古神道に詳しい友人の神戸圭子によると、弁天さんは「暴きの弁天」と呼ばれ、人類の歴史に大きな変化が起きる時に表にでてくると言い伝えられているのだそうだ。
もうひとつ面白い話があって、天河弁財天の門外不出の宝のひとつに弁天さんを描いた秘蔵の絵がある。ご縁があって、その絵を見る機会があったのだが、そこに描かれていたのは美しい着物を着た女神には違いないが、顔は人間ではなく蛇そのものだった。ずいぶん古い絵らしいが、それが天河弁財天の本質的なイメージなのだろう。
拝殿の前に立ち、弁天さんを胸中に招き入れて、ひとつになる。
とてもパワフルで透明で、懐かしいエネルギーだ。
ふと拝殿の前の玉砂利が敷かれた地面に掌をつきたくなった。
意識を弁天さんに合わせたまま、静かにしゃがむ。
そして「共にあれ」と祈った瞬間、手ごたえがあった。
指の隙間から透明な水がこんこんと噴き出してゆくのが心眼に映った。
みるみるうちに玉砂利は水に覆われ、拝殿も神楽殿もどこまでも透明な水が満ちてゆく。
しかしうまくいった気がしない。
初めての神事ということで肩の力が抜けていないのだ。
仕切り直しだ。
今日のところはいったん終了して、神社から30分ほど歩いたところにある旅館に戻ることにした。
夕食を終えて、一服しながら窓の外をみると真っ暗な星空が見える。
胸の中に白龍(素沙王)がいる。
意識を飛ばして、白龍とともに天河弁財天の奥宮にあたる弥山に飛んだ。
黒々とした山々が折り重なる射干玉色の闇。
ふと空を見上げると、まるい月が煌々と輝いている。
白龍と共に祈る。
深い、深い祈り。
いつのまにか弥山からあふれた透明な水は村全体を覆い、ゆっくりと日本列島に広がってゆく。旅館も村もすべてが湖底に沈んでしまったような感じだ。
遠くでリーンと透明な鈴の音が響いた。
翌朝、共同の洗面所で顔を洗っているときのことだった。
「お客さん! お客さん!」
旅館の女将がバタバタとかけてくる。
「お客さん! 宮司さんが、宮司さんが! 早く下に降りてください!」
「はい?」
わたしは石鹸であわあわになったまま顔を上げた。
「いま顔を洗っているからちょっと待ってもらえます?」
「そんなことより、宮司さんがお待ちです! とにかく早く!」
「えええ~~~????」
ほとんどパニックになった女将に言われるままに慌てて泡をふきとって階下に降ると、玄関に体格の良い快活そうな年配の男性が立っていた。
「昨日、うちに寄られましたよね?」
どうやら天河神社の宮司らしい。
「はい。でも、どうしてここがわかったんです?」
「御祈祷のお申込み帳を書いたときに、うちのものがキョーコさんのお泊りになる旅館を覚えていたんですよ」
じつは昨日天河弁財天に行ったときに最初はご祈祷を申し込んだのだ。
理由はせっかくなので拝殿の上で祈りたかったからだ。
で、申し込み帳に必要事項を記入してからご祈祷のときは拝殿に上がれるのかと訊いてみたら、残念ながら玉砂利の上に椅子を置いてのご祈祷なので拝殿には上がれないとのこと。それを聞いて、ご祈祷を取り消したという経緯がある。
宮司は昨夜その話を聞いて、なにやらすごく気になってどうしてもわたしに会ってみたくなって、わざわざ旅館まで訪ねてきてくださったのだという。どうして天河に来たのかと聞かれて、わたしはそんなことを話してもいいものかどうか迷いながらも、かい摘んで弁天さんのことを話した。
「龍を起こして、北から南へ水を流せ、と。。。。それもゆうべは満月・・・・・」
宮司はわたしの名前(本名:澄江)を確かめるように聞き直して、ひとり納得したようにしきりにうなずいた。
名前が弁天さんそのものなのが、あまりにも出来すぎていたせいだろう。
「今日はこれからどうなさいますか?」
宮司が訊いた。
「もういちど弁天さんにご挨拶してから東京へ帰ります」
「今日、帰ってしまわれますか。残念です。もっとゆっくりお話がしたかったのですが、わたしはこれから出かけなければならないのです」
宮司はそう言うと、すっかり畏まっている女将に言った。
「失礼のないように、こちらさまを神社まで車でお送りしてな。お帰りもきちんと送って差し上げるように」
そう言い残して、深々と頭を下げて出て行かれた。
どうやら宮司は村では大きな影響力があるらしい。
なぜか朝食のおかずがわたしの分だけ一品多かった。
旅館の車で神社まで送ってもらい、もういちど拝殿で祈った。
昨夜の弥山での祈りのせいか、余計な力が抜けている。
弁天さんとひとつになっていると、胸の中に巨大な緑色の渦巻のエネルギーが現れた。
勾玉の形によく似ている。
ついで赤い渦巻のエネルギーが現れた。
暗黒龍王だ。
あの日以来、暗黒龍王はいつもわたしの胸の中にいる。
さらに巨大な水色の勾玉に似た渦巻きのエネルギーが胸いっぱいに広がった。
この勾玉は弁天さんだろうか・・・?
即座に応えがある。
生まれながらにわたしがもっている勾玉だという答えが返ってくる。
そうなのか。よくわからないけど、納得する以外にない(苦笑)。
弁天さん、白龍(素沙王)、暗黒龍王のエネルギーが私の中でひとつになった。
玉砂利に掌をつき、水色の勾玉を封じた。
その瞬間、玉砂利の中から透明な水があふれて出てきた。
水は瞬く間に拝殿を覆い尽くし、さらに水位がどんどん上昇してゆく。
日本中に透明な水があふれてゆく。
こんどこそ完了だ。
拝殿をでると、一陣の風が吹いた。
ほんの一瞬、さーっと雨が降ってきた。
神事のあとはよくあることだ。
わたしは白龍(素沙王)とともに天河弁財天をあとにした。
(シャーマンへの道「12 大神神社と土砂降りの雨」につづく)
2015年9月
【シャーマンへの道シリーズ】
シャーマンへの道「1 やりたいこと」
シャーマンへの道 「2 エネルギーの使い方」
シャーマンへの道「3 宮古島」
シャーマンへの道「4 ユタ」
シャーマンへの道「5 ウハルズの謎」
シャーマンへの道「6 白龍」
シャーマンへの道「7 決断」
シャーマンへの道「8 禍津神の封印」
シャーマンへの道「9 暗黒龍王」
シャーマンへの道「10 心の暗黒面とフォーカシング」
シャーマンへの道「11 天河弁財天」
シャーマンへの道「12 大神神社と土砂降りの雨」
シャーマンへの道「13 「意識を飛ばす 竹生島弁財天」
シャーマンへの道「14 六芒星起動」
シャーマンへの道「15 それ」
シャーマンへの道「16 『それ』の本当の意味」
シャーマンへの道「17 そして、神がみえなくなった」