シャーマンへの道「5 ウハルズの謎」
「あんたがつらいのはよくわかる。でも、わしは神さまの言葉を伝えなきゃならない。約束……約束を果たせ――神さまは、そう言ってる」
ユタの言葉をただの戯言だと聞き流すにはこの数日でいろんなことがあり過ぎた。
「約束って・・・・・?」
「それは、あんたが自分で見つけるしかない。あんただけじゃない。みんな、ちゃんと生まれてくるときに神様と約束してくるんだよ」
ユタはそう言ってかすかに笑った。
東京に戻ったあと、池間島でわたしが感じた岩のことをインターネットであれこれ検索してみたけれどまったくヒットしなかった。ただコイツノというのは古意角といって、宮古島の漲水御嶽(はりみずうたき)に伝わる島立ての神話に出てくる夫婦神の男神と同じ名前だということはわかった。
自分で調べるのに行き詰った頃、偶然池間島のホームページを見つけた。管理人のAさんにメールを出したら丁寧な返事が戻ってきた。Aさんによると、わたしが呼ばれた岩はミャークヅツの時にウハルズで使う白砂を干しておくための岩なのだという。
ウハルズというのはオハルズあるいはウパルズ、ナナムイとも呼ばれ、池間島でいちばん神聖な御嶽(うたき)のことで、ウラセリクタメナウという生命を司る最高女神が祭られている。
ここは宮古島の神々の発祥の地でもある。
ふだんはツカサンマとよばれる神女の許可がなければ島民も立ち入ってはいけない場所なのだが、年に一回の祭りであるミャークヅツの日だけは参拝が許される。ただここ数年、池間島ではツカサンマのなり手がないため祭りが行われていないのだという。
なんとも不思議な話だった。
沖縄地方ではツカサンマやノロ、あるいカンカカリヤーなどと呼ばれる神女たちが御嶽で先祖や精霊たちに祈るときにはお神酒を供え、香をたくのが普通だ。あの時、わたしが線香をあげてお神酒を供えたいと強烈に感じたのは、それがウハルズに祀られた神霊の願いだったからだろうか。
このときは3年後のミャークヅツの日にマレビトとして村の長老の前で歌うことになるなんて想像もしていなかった。
岩の謎は解けたけれど、もうひとつ宮古島から帰って以来ずっと気になっていたことがあった。
それはあのユタのオバアの歌と約束という言葉だ。
ユタはなぜあの歌を歌えなかったのか。
東京に戻ってすぐに伊良部島村役場に問い合わせて、「伊良部村史」を送ってもらった。分厚い伊良部村史には伊良部島の歴史や民俗などが詳細にかかれているのだが、その中に伊良部トーガニと呼ばれるユタの口ずさんだ唄の歌詞が載っている。
「どんな唄なんですか? 教えてください」
電話口で神戸圭子(仮名)が言った。
彼女はわたしのアヤシイ話を唯一聴いてくれる奇特な友人だ。
おまけに神道やらになやら向こうの世界に詳しいだけでなく、いわゆる「観える」ひとだ。
「いいよ。読むね。ええとね・・・・・」
わたしは分厚い本に視線を落とした。
「サーヨーイ いらうとがまーん ばしがまんなよ」
不意に部屋の空気が動いた。
「ばなりとが・・・・・」
その刹那、電話口の向こうで圭子の絶叫が響いた。
「う……後ろ……後ろ……」
圭子のかすれた声がどこか遠くで聞こえた。
わたしはゆっくり振り向いた。
(シャーマンへの道「6 白龍」につづく)
2015年9月
【シャーマンへの道シリーズ】
シャーマンへの道「1 やりたいこと」
シャーマンへの道 「2 エネルギーの使い方」
シャーマンへの道「3 宮古島」
シャーマンへの道「4 ユタ」
シャーマンへの道「5 ウハルズの謎」
シャーマンへの道「6 白龍」
シャーマンへの道「7 決断」
シャーマンへの道「8 禍津神の封印」
シャーマンへの道「9 暗黒龍王」
シャーマンへの道「10 心の暗黒面とフォーカシング」
シャーマンへの道「11 天河弁財天」
シャーマンへの道「12 大神神社と土砂降りの雨」
シャーマンへの道「13 「意識を飛ばす 竹生島弁財天」
シャーマンへの道「14 六芒星起動」
シャーマンへの道「15 それ」
シャーマンへの道「16 『それ』の本当の意味」
シャーマンへの道「17 そして、神がみえなくなった」