四十肩だったわたしがハイパフォーマンスな身体を手に入れた理由
それが起きたのは夕飯の支度をしているときだった。
味噌汁の具の豆腐と長ネギが煮えて、台所には出汁の匂いがただよっている。わたしはいつものように目の前に吊るしてあるお玉を取ろうと思って手を伸ばした。
その瞬間、
「痛っ」
左肩に激痛が走った。思わず、左肩を押さえてその場にうずくまった。何が起きたのかわからなかった。お玉を取ろうとする直前まではなんともなかったのだ。おそるおそる左腕を動かしてみる。とたんに痺れるような痛みが走る。1ミリでも動かそうとすると痛い。
いったい何が起きたんだろう?
翌日近所の整形外科に行くと、医者はこともなげに言った。
「四十肩ですね」
わたしは軽いショックを受けた。ついに四十肩になってしまったのか。
「四十肩って、あの、年をとったらなるやつですか?」
「いや、年をとったからなるわけではないんだけど、まあ、四十代や五十代の患者さんが多いね」
「で、どのくらいで治るんです?」
「なんとも言えないね。1週間で治るひともいれば、1年たっても治らないひともいるからね。原因? う~ん。まあ、生活習慣とか、いろいろだね。痛み止めをだしておくから様子をみて。ああ、そうだ。リハビリを受けていく?」
「治るんですか?」
「根本治療じゃないから、なんともいえないね」
四十肩初心者には雲をつかむような話だ。根本原因は特定できないし、医者のようすだと、どうやら治療法が確立されているわけでもないらしい。リハビリテーションにしてもエビデンスがあるわけではないということか。治るか治らないかは運を天に任すということだろうか? わたしはがっかりして家に帰った。
その日から不自由な生活が始まった。四十肩についてはこれまでときどき話題にのぼっていたけれど、自分には無縁な出来事だと思っていた。ところが実際に自分がなってみるとじつに不便だ。左側に置いてあるものを取ろうと手を伸ばすと痛いので、いちいち右手を使わなきゃならない。左腕が動かせないことで日常生活はおろか趣味や遊びにも制限がかかる。これはけっこうテンションが下がる。
じつはわたしは身体には自信があった。趣味が登山やダイビングなどのアウトドアなので同世代にくらべると、身体能力はかなり若いと思っていたのだ。それが突然の四十肩で、がらがらと崩れていった。いつまでこの生活が続くのだろう? もしかしたら1年後もこの状態かもしれないと思うと、ずっしり重たい気持ちになる。
世の四十肩仲間はどんな生活を送っているのだろう。以前、知人から四十肩で困っていると聞かされたことがある。そのときはまったく心のこもらない口調で、それは大変ですねと受け流してしまった。あのときは本当に申し訳なかった。いまなら知人の気持ちがよくわかる。
四十肩と共存生活を送っていたある日、友人が1枚の無料チケットをくれた。
「フェルデンクライス・メソッド?」
はじめて聞く名前だった。
サルサダンスの名手でもある彼女は基礎トレーニンングがわりに毎週スポーツクラブでフェルデンクライス・メソッドの個人レッスンを受けていて、たまたまお友達紹介キャンペーン中ということで無料チケットをもらったのだ。
「それはヨガみたいなもの?」
「ヨガとは違うんだけど、ゆるい動きなのにパフォーマンスがとても上がる。わたしのようなダンサーやアスリートの基礎トレだけじゃなくて、最近では怪我や高齢者のリハビリテーションにも使われているらしいよ」
この1か月、整形外科のリハビリテーションに通っているけれど、まったく効果がなかった。整形外科のリハビリテーションでもだめだったのに本当に効くのだろうか。無料だし、効果があればラッキーくらいの気持ちでフェルデンクライス・メソッドを受けてみることにした。 さっそくわたしは彼女の通っているスポーツクラブに予約を入れた。
さて当日。45分間の個人レッスンが終わると、担当のトレーナーが言った。
「では、ゆっくり立ち上がってください」
わたしはゆっくり立ちあがった。
え? なにこれ?
そのときの衝撃は5年経ったいまでもよく覚えている。
本当にびっくりしたのだ。
だって、だって、上半身が羽根のように軽い!
これまでの人生の中で味わったことのない感覚だった。床にどっしりと立っているのに上半身の重さをまったく感じない。首や肩の筋肉の余計な緊張がまるでない。軽い! とにかく軽いのだ! 悟りというのはこういう状態をさすんじゃないかと本気で思った。
「ゆっくり左腕を上にあげてみて」
そう言われて、わたしはおそるおそる左腕を上にあげた。するとどうだろう。まったく痛くないのだ。何が起こったのだろう? ついさっきまでは四十肩の痛みで左腕を動かすことができなかったのに、たった45分の間に左腕は四十肩になる前よりも楽に動かせるようになっている。
トレーナーはにこにこ笑っているだけだ。
わたしは静かな感動を感じていた。
紹介してくれた友人が言うには、フェルデンクライス・メソッドは身体の使い方を学ぶレッスンなのだという。ひとそれぞれ骨格や筋肉の状態も違うので、それぞれの身体にあったレッスンをすることで、そのひとの身体能力をより良い状態にもっていくことができるのだとか。う~ん。なんだかわからないけどすごい。
「左腕を動かすときに、背中にある肩甲骨ごと動かすイメージで動かしてみてくださいね」
肩甲骨って、どこだっけ?
「ここですよ。雑誌で背中美人になる特集ってありますよね? 肩甲骨がうまく使えると背中美人になるし、姿勢も良くなりますよ」
びっくりだ。トレーナーに言われたように肩甲骨から動かすつもりで腕を上げると、もっと楽に上がる。
「しばらくレッスンに通っていいですか? もっと知りたいんです」
気がついたら、そう言っていた。
「もちろんです」
トレーナーは一冊の本を紹介してくれた。
その本のタイトルは、「フェルデンクライス身体訓練法」。
著者はモーシェ・フェルデンクライス。
「これ、読んでみるといいかもしれません。もっと身体のことについて理解が深まるかもしれませんよ」
2018年4月26日
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