古代幻視 神功皇后 2005年版(2024年追記あり)
彼女は、一瞬立ち止まった。
目が暗さに慣れるまで少々の時間が必要だったからだ。
だだっ広い屋形のなかは暗く、すべての入り口に板が打ち付けてあるのだろう。彼女の背後の開け放した入り口から、庭先の光がわずかに差し込んでいるだけだ。
乾いた干草と土くれの混ざったような匂いがどこからか漂ってくる。
彼女は重い鎧をつけたまま、だまって部屋の奥に向かった。
そこにはひと目で高位の出自とわかる男が静かにすわっていた。
だが男には首から上がなかった。
男のひざのすぐ横に頭髪をミヅラに結った首がぽとんと落ちている。かつては鋭い眼光でひとを射すくめたであろう瞳も、穏やかにとじられたまま何も語ろうとはしない。すっかり干からびた皮膚は、すでにこの世を去った者の残骸に過ぎなかった。
彼女はじっとそれを見つめた。
「半島に渡るには名目がいる。諸王には事情を話すわけにはゆかぬゆえな」
「だが誰もが反対するこの時期に新羅に兵を出せば、痛くもない腹を探られるのは目に見えている」
「ならば反対勢力を納得させればよい」
「だが・・・」
「まだ日の国の封印を解く時期ではない。遠い未来、そのときが来るまでは、神域を守らねばならぬ」
「――王」
「巫女姫よ、そなたはすべきことをせよ」
あのとき、王とともに見た香椎宮の月は白かった。
そしてその夜を境に、王とその后である巫女姫は新羅征伐派と反対派の中心として、一方の息の根を止めるまで対立することになる。
(これが・・・そなたの心か・・・)
彼女はかつて愛した男の穏やかな死に顔を見つめていたが、やがてくるりと踵を返すと外にでた。
(その心、無駄にはせぬ)
「火をかけよ」
彼女は控えていた兵にそう言うと、腰につるした剣の柄をぎゅっと握りしめた。
天高く炎があがった。
ニニギノミコト(=仲哀天皇)の最後である。
やがて巫女姫は胸の痛みを断ち切るように歩き始めた。
後世、彼女は神功皇后とよばれるようになる。
☆ ☆ ☆
何年か前に、明けがたの瞑想で見た映像です。
いつか小説のネタにでも使ってやろうと思っていたんだけど、ほっておくと、そのいつかは永遠にやってこないかも(爆)。
というわけで、ときたま発行古代歴史小説で~す。
2005年3月24日
★2024年1月16日追記
237年 母クナトナ(照姫)殺される、アタ姫(神功皇后の別名)5歳ぐらい、宗像の東・岡垣町あたりの砂浜
273年 神功皇后死去?
■ニニギノミコトはニギハヤヒ(饒速日)と同一人物です。詳しくはレイライン7 出雲の御祭神をどうぞ。
◆古代幻視シリーズ◆
古代幻視シリーズはレイライン・カテゴリに含まれますが、連載ものになっているので、上から順番に読んでいくと分かりやすいです。
・シャーマニズムと裏付け調査 2007年1月27日
・簡単古代史(記紀)入門 2007年1月28日
・古代幻視 1 饒速日尊 2007年1月28日
・古代幻視 2 滋賀県鏡山と伊勢遺跡 2007年1月31日
・古代幻視 3 神功皇后 2007年2月2日
・レイライン7 出雲の御祭神 2007年1月24日
・プロメテウスの火 2007年2月6日
レイライン・カテゴリの中の鹿島ー諏訪、出雲、そして縄文に関連のある記事をまとめてあります。
◆鹿島ー諏訪、そして縄文◆
★レイライン01&02
・鹿島神宮 1 諏訪大社と縄文神 2006年10月23日
・鹿島神宮 2 鹿島ー諏訪レイライン 2006年10月28日
★レイラインシリーズ1-8&
・レイライン1 鹿島神宮と縄文ライン1 2006年12月5日
・レイライン2 鹿島と香取 2006年12月7日
・レイライン3 パワースポットの謎1 大地の力 2006年12月17日
・レイライン4 パワースポットの謎 2 縄文神の正体 2006年12月19日
・レイライン 5 パワースポットの謎 3 余談だけど運気アップのコツ 2006年12月24日
・レイライン 6 パワースポットの謎4 御祭神もいろいろ 2006年12月29日
・レイライン7 出雲の御祭神 2007年1月24日
・レイライン8 縄文ライン 2007年2月18日
・プロメテウスの火 2007年2月6日
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