人生のミッションの見つけ方
「私の人生のミッションが知りたいんです」
そう言って、彼女は真剣なまなざしでじっと私の顔を見つめた。
もう20年ぐらい前だったかな。
当時は聖地巡礼じゃないけど、日本中あちこち旅をしていた。
あるとき、たまたま旅先で知り合った子と一緒に居酒屋で晩御飯を食べたんだよね。
外は雪が降り始めていて、狭い居酒屋は地元客でにぎわっていた。
彼女とは面白いぐらい話が弾んで、人生のこと、将来のこと、この世界のことなど、いろんなことをしゃべった。
地元の山菜と地酒に舌鼓を打ちながら、すっかり酔いが回った頃に、突然彼女がそう言った。
「人生のミッション?」
「うん。私は丸の内のオフィスでデスクワークをしていますけど、ときどきこれでいいのかなと思うんですよ。お給料はそこそこもらえるし、趣味に使う時間もある。たぶん恵まれていると思うんです。でも時々、これでいいのかな? と、思うんですよ。
かといって、特にやりたいことがあるわけじゃないし、才能があるわけでもない。結婚して、子どもでもいれば、また違うんでしょうけど、いまはそんな予定もないしこのまま年を取っていくのかと思うと、たまらなく不安になる時があるんです」
「年を取っていくのが不安?」
「うん。そうですね。いまはいいけど、年を取って、自分の人生を振り返ったときに、誇れるものも、何かを成し遂げたという実績もないまま、ただ時間だけを浪費したと後悔しそうな気がして。」
「人生は結果がすべてではないと思うけど・・・」
「そうかもしれません。でも、自分は何のために生きているんだろう・・・そう思うんです」
「ああ・・・だからミッションを知りたいと」
彼女はこっくりとうなづいた。
ミッションという言葉はちょっとわかりにくいよね。
日本語では、使命とか天命などと呼ばれているかな。
この世に生まれてきた意味ともいえるかもしれない。
もちろん仕事や社会的役割を指すものでもない。
ミッションとは、その時々で移り変わる好き嫌いなどの感情ではなく、その人の在り方や生き方、あるいは大切にしている価値観を体現したものと言えるかも。
あ、、わかりづらいよね(^^;
たとえば、心の奥深くから湧き上がる喜びを感じたい、
自分自身と自分と同じように傷ついたひとたちを救いたい、
未知のことにチャレンジしたい、
日常の中のささやかな喜びを大切にしたい、
この社会を変えたい、
自分の中からあふれる思いを表現したい、
いまの悩みを解決したい、
これらのどれもがミッションだ。
ミッションはパンを作るときに使う酵母に似ている。
自宅でパンを焼いたことがあるひとならご存じだと思うけど、パンを作るときは小麦粉・砂糖・塩といった材料に、適温で育てた酵母を加えることでパン生地が膨らむ。
素人には酵母を上手に育てるのがなかなか難しくて、その日の気温やお湯の温度などで発酵の状態が大きく変わる。
つまり酵母を上手に発酵させることが美味しいパンを焼く秘訣なわけだ。
人生をパンにたとえるなら、酵母はミッションだ。
誰でもミッションをもって生まれてくる。
人生というパンを美味しく焼くには、酵母というミッションを上手に育ててあげる必要がある。
心の奥深くから湧き上がるミッションを感じて生きていると、すっと一本、心に軸が通るというか、納得して生きていられる。
社会的な業績とは全く関係なく、自分を信頼していられる。
これはとても大きい。
とくに社会が不安定な時代はね。
じゃ、どうしたら自分のミッションに気づけるのだろう?
うん。それは精一杯生きることかな。
悩んだり、迷ったりしながら、目の前のことから逃げずに生きていると、あるとき自分の生きてきた道を振り返って、ふと気づく。
あ、これが自分のミッションだったんだな、と。
それは家族を大切にすることかもしれないし、新薬を作ることかもしれない。
ひとつだけ言えるのは、あなたがずっとこだわってきたり、悩んできたことの中にミッションがある。
そのこだわりは、あなたの担当なのだ。
自分のこだわりや悩みなんて平凡だと思うかもしれないけど、99パーセントのひとは平凡だし、だからこそあなたのこだわりは普遍的で多くの人にとって重要なこだわりや悩みだったりするんだよね。
だからあなたがその悩みを解決することによって、地球の裏側に住むあなたと同じ悩みを持つ誰かの心がほんの少し軽くなる。
あなたが幸せになることで、似たような境遇の誰かの人生に光が差してくる。
あなたが歩いたその後ろに道ができる。
ミッションは人それぞれ。
自分や家族の幸せを感じながら日常を生きる人もいるし、環境に背中を押されるように、社会に貢献する人もいるだろう。
大事なのは、自分が満足できる美味しいパンを焼くことだ。
「ふうん。じゃ、平凡な私にもちゃんとミッションがあるんですね? それはいまのこのもやもやした悩みの向こうにある?」
「うん。たぶんね。今に満足していないなら、何が不満なのか、本当はどうしたいのか、硬い頭を柔らかくして、掘り下げてみれば?」
それから数年後、自宅に小包が届いた。
中には手紙が添えられていた。
「お元気ですか? あの時はありがとうございました。
あの頃、友人たちが自分のお店をもったり、活躍しているのを横目でみながら、自分がつまらない人間のような気がして、なんとなく劣等感を持っていたんです。
でもやっぱりほかにやりたい仕事もなくて、さりとて生きていくためにお金は必要だし。
だから、まずは目の前の仕事に集中してみることにしたんです。
そんな毎日を過ごしているうちに、あるとき自分が事務などの細かい作業が好きなことに気づきました。いまの仕事は結構向いているのかもしれないと思うと、いつのまにか劣等感もなくなりました。
そんなふうに思い始めた頃に、いまの主人と出会いました。
覚えていますか?
キョーコさんと初めてお会いした時に飲んだ日本酒の銘柄。
じつは彼はそのお酒を造っている地元の酒蔵の息子なんです。
春には子どもも生まれます。
主人の作った酒ですが、ご賞味ください」
北国の雪見酒。
今でもときどき、冬の寒い日に日本酒を飲むと彼女のことを思い出す。
あのとき、こっそり彼女の魂が望んでいる人生のミッションを見てみたんだよね。
それは、「丁寧にささやかな幸福を守り育てること」だった。
人生は何が起こるかわからない。
ミッションは酵母であり、人生を大きく動かす水脈だ。
そしてそれは、案外身近に転がっているかもしれないよ。
2020年1月30日
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