隻手の音を聞いてこい
きのう、何気なくテレビをつけたら、いきなりこんな言葉が耳に飛びこんできた。
「隻手の音をきいてこい」
隻手というのは片手のこと。
ふつう両手を打ち合わせて拍手をするよね。つまり両手があるから音を鳴らすことができる。片手では音を鳴らすことができない。
それなのに片手の音を聞いてこいと言う。
じつはこれ、白隠禅師の有名な禅の公案なんだよね。
片手の音ねえ・・・・・・。
白隠の弟子のひとりがあるとき、この公案を出される。
弟子は何年もかけて取り組むが、片手の音は聞こえてこない。
「聞こえません」と言うと、「ばか者。死ぬ気で真剣に取り組め」と叱られる。
だけどやっぱりわからない。
「風の音は聞こえるようになりましたが、片手の音はやっぱり聞こえません」
あるとき、とうとう「そんなやつは死んでしまえ」といわれてしまう。
弟子は死んでお詫びをするつもりで、遠州だったかな・・・・とにかく生まれた国に帰る途中、ある山の峠にさしかかるんだよね。
ふと見ると、はるかな山なみやどこまでも続く緑の森が目に入った。
この景色もこれで見納めかと思って、その場に腰を下ろして眺めているうちに、いつのまにか眠ってしまう。
いよいよ夜が明ける頃、ふいに目を覚まして、
「さあこれで心置きなく死ぬことができる」
と思って、崖から身を投げようとした瞬間、一筋の光が目に飛び込んでくる。
夜明けの陽光だった。
その瞬間、
美しい・・・・すべてが、いまこの瞬間生まれでた。
山も川も森もすべてがなんと驚きに満ちた美しさだろう。
世界は自分であり、自分が世界なのだ。
彼はこのとき、「隻手の音を聞け」の意味を理解するんだよね。
キョーコ流にちょこっと解説すると、これは「あるがまま」の世界に気づいたということなんだと思う。身の回りの風景はわたしたちのものの見方によって様々な姿に映る。傷ついたメガネで世界を眺めれば、世界は傷つき、歪んで映る。青いサングラスをつけていれば、鮮やかなそのものの色がわからない。
片手の音など本当は聞こえるわけがない。
でも聞こえないと気づくことによって、片手の音が聞こえてくる。
ありのままの世界を眺めることによって本質が見えてくる。
その瞬間、世界と自分が繋がる。自分は世界であり、世界は自分であるという、一体感を知る。
この弟子は「死」を意識することによって、それまでのものの見方をリセットしたんだよね。
ものの見方というのは、それまで当人が生きてきた様々な記憶と結びついている。
よくこの曲を聴くと、あのことを思い出すなんていうでしょ?
それから思い出の場所。あるいは思い出の品なんていうのもあるよね。
つまり、ひとは目に映る景色や体験することすべてに対して、なにかしら色をつけて見ているわけです。
それ自体は悪いことではないんだよね。
ただ自分が、目に映るものに対してどんな色をつけて見ているのか自覚すること。
それが学びであり、精神の成長なんだよね。
そうした自分の状態をありのまま見ることができるようになったとき、そのひとにとって世界は新しく生まれかわる。そして自分もまた世界の一部であり、すべてなのだと理屈ぬきで気づく。
前述の話に戻ると、彼は悟りを得て白隠禅師のもとに帰って報告して一件落着。
同じ公案に対して、こんな回答をしたひともいる。
「隻手の音を聞く暇があったら、両手を叩いて商いをせよ」
このひとは餅屋の主人で、両手を叩くというのは、「いらっしゃい、いらっしゃい」と両手を叩いてお客の呼び込みをするという意味。
これもまた真理。
頭の中で理屈をこねくりまわして遊んでいる暇があったら、目の前の現実に精一杯取り組めということだよね。
どちらも深い。
そして行き着くところは同じ。
さあ・・・あなたはどちらだろう?
2004年2月14日
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Comment
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この「隻手の音声」の考え方として、次のようなものはどうでしょう。 まず、自分の体に右手と左手が何本ずつあるか、考えてみましょう。 もちろん、一本ずつです。 つまり、右手も左手もおのおのが隻手なわけです。 よって、左右の両手を打ち合わせれば、それでok これは、「目横鼻直」が「目が横につき鼻が縦についてる」という意味で、物事の当たり前にありのままに、見えるようになるための、問答で、自分の体に左右の手が何本ずつあるか、という当たり前のことに気づけば、おのずから答えが出るのだと思います。 ほとんどの人は、隻手と聞いた瞬間に、左右の両手が一本ずつしかない(つまり各々が隻手)という、当たり前のことが見えなくなるのだと思います。
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hoyanihatoさん 「目横鼻直」ですか。 なるほど当たり前のことが見えなくなる。 深いですね。
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正しくは「眼横鼻直」でした、失礼。
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hoyanihato さん 訂正をありがとうございます。
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隻手の音 突き詰めてゆくとその音を聞きたかったら自分がもう一方の隻手になるしかないというところまで追い詰めていって、一瞬の音を鳴らしたとして、そのおとも自分ひとりが鳴らしたのではなく、最初から有った隻手との共同作業であったわけです。 森羅万象、このように隻手を我々に見せて活きる場所を見つけさせてくれる。 両手をパチパチ鳴らして商売に励むのも、結局は隻手の隣に居るに過ぎないかも。
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kuu さん >森羅万象、このように隻手を我々に見せて活きる場所を見つけさせてくれる。 そうですね。 意識さえむければ、どんな物事からもこの世界の深遠を観ることができるということかもしれませんね。