古代幻想2 滋賀県鏡山と伊勢遺跡
世界は無数の糸がより集まってできている。
はじめのうちは心眼にぽつりぽつりと映るビジョンがいったいどこへ向かおうとしているのかわからなかった。主人公の目を通してその時代を眺めつつ、やがてかれらが重複したひとつの物語の主人公だと気づくまでに数年の歳月が過ぎた。
というわけで饒速日尊にひきつづいて、今回は滋賀県鏡山が舞台です。ビジョンだけでは時代がわからないのが難点といえば難点だな。
鏡山に埋められた巫女姫
鏡山の山頂付近の木立のなかに、白っぽい衣を身にまとった数人の神官たちが集まっていた。かれらは人足たちが黙々と穴を掘っているのをじっと見つめていた。
すっかり穴を堀り終わると木の棺が運ばれた。
神官のひとりがそっと棺の蓋をあけた。
中にはひとりの巫女姫が眠っていた。
身分の高さを示す衣服に身を包んだまま、巫女姫はひっそりと棺の中に横たわっていた。神官は臣下の礼をとったまま、棺から後ずさりするように離れ、その場にひざまづいた。
やがてゆっくりと彼女の目がひらいた。
視点が切り替わった。
それまで映画を眺めるように一部始終を見ていたわたしの視点はいつのまにか棺の中の巫女姫の視点になっている。
木立の向こうの真っ青な空が映る。
まるで自分自身の心のように彼女の気持ちがはいってくる。
彼女の愛した大地や琵琶湖の風景。邑の人々の笑顔が心の中に映る。
自分が埋葬されることで民を守ることができるならそれでいい。
鏡山に生きたまま葬られる聞かされたときは、巫女王など使い捨ての道具でしかないと思った。人間というのはこんなにも孤独なのか。葬られることが悲しいのではなく、誰にも自分の本当の気持ちなど理解してもらえないことが悲しかった。
けれどいま巫女姫の心のなかは不思議なぐらい平穏だった。
最後の役割を果たすことで、愛する人たちを守ることができるなら、それを受け入れようという静かな決意のようなものが彼女の中にあった。
巫女姫の大地や人々を愛する静かな思いがそこにあった。
神官は彼女が目を閉じたのを確認すると、下の者に棺の蓋をとじるよう命じた。
陽光が遮断されて、閉じたまぶたの裏側が暗くなった。
つり下げられた棺がゆっくりと穴の中に降ろされる。
真新しい棺の木肌に湿った土がかけられてゆく。
これを視た数日後、ふたたび巫女姫のビジョンを見た。
姫巫女は鏡山から麓にひろがる風景をながめていた。
埋められる前日の昼下がりだった。
彼女の置かれた立場や背景をさぐろうと意識をそちらに合わす。
すると別れを惜しむ一組の男女の姿が見えた。
どうやら巫女姫の夫(?)である大王は彼女に留守を預け、遠征にでてしまったらしい。妻に別れを告げながらも、大王の心は大きな事に取り組む人間特有の前向きな希望に満ちていて、それが巫女姫との今生の別れになるとは想像もしていなかった。
けれど大王がこの地をあとにしてから月日は流れ、時代はふたたび動きはじめていた。
実地検証&解説
鏡山は琵琶湖の東側、滋賀県蒲生郡竜王町にある。さっそく現地を訪れてみると面白い事実がたくさんでてきた。
鏡山の北麓に鏡神社という社がある。
御祭神は新羅から渡来したと伝えられている天日槍(アメノヒボコ)で、相殿は天津彦根命(アマツヒコネノミコト)と天目一箇神(アメノヒトツノカミ)。
『日本書紀』によると、第11第垂仁天皇3年、新羅の王子・天日槍は陶芸、金工集団を引きつれて渡来し、近江・若狭を経て但馬の出石(兵庫県)に定住した。また近江の鏡村谷の陶人は天日槍の従者であるという記述がある。
地元の伝承によると、鏡山という名前は、かれが渡来したときに持参した、羽太の玉、足高の玉、赤石、刀、矛、鏡、熊の神籬の7種の神宝のひとつである鏡を山中に埋めたことに由来するという。
実際に鏡山の稜線を歩いてゆくと、正面に野洲町の三上山が見える。
三上山は近江富士の名のとおり、美しいピラミット型の稜線をもつ。古代から信仰の対象とされていて、山頂には人々が祈りの対象にしたと思われる磐があった。さらの麓にある御上神社の御祭神は天御影命(アメノミカゲ)だけど、祈りの対象は三上山なんだよね。
天照大神の孫(天津彦根命の子)にあたる天御影命は物部氏と縁が深く、その娘の息長水依比売(オキナガミズヨリヒメ)は、九代開化天皇の皇子にして崇神天皇の弟にあたる日子坐(ヒコイマス)王と結婚している。ちなみに日子坐王は丹後の鬼退治伝説で知られている。
さらにおもしろいのは邪馬台国三上山説というのがある。
その根拠となったのが滋賀県守山市伊勢町で発掘された『伊勢遺跡』。守山市の教育委員会によると建物跡の調査の結果、、伊勢遺跡がつくられたのは1世紀末~2世紀末であること。さらに国内最大規模の大型竪穴建物であることから、有力者の住まいであった可能性が高いと発表しているんだよね。
それも集落の形状からいって、住居というよりも大規模な祭祀場であった可能性も高いとのこと。この伊勢遺跡から東に3キロほどいったところに三上山があって、その美しい姿は遺跡からもよく見える。
邪馬台国といえば北九州説と纏向遺跡の箸墓を卑弥呼の墓とする近畿説が有名だけど、近江もなかなかあなどれない。もちろんわたしの見た巫女姫が邪馬台国の卑弥呼とイコールかというと、違うような気もする。魏志倭人伝にのっている邪馬台国は北九州に存在していて、それとは違うけれども大きな勢力をもった小国家郡が大和や近江に存在していた可能性が濃いような気もする。
大王の正体が誰なのか、いまのところ確信がない。これは焦点が巫女姫のほうに合っていて、あまり大王のことが鮮明にでてこないせいもある。ただ饒速日尊と天日槍は朝鮮半島と密接な繋がりがあるだろうなと思う。
年代的には伊勢遺跡は二世紀末の大和大乱のあと衰退してゆくらしい。
※追記訂正
伊勢遺跡の年代について、二世紀末の大和大乱のあと衰退してゆくらしいと書きましたが、『邪馬台国発見記』さんのHPによると、それぞれの遺跡のピークは微妙にずれているそうです。
伊勢遺跡は野洲河流域の遺跡群のひとつという考えが主流になりつつあります。つまり野洲河流域一帯が弥生時代の国家があった可能性が高いということです。
伊勢遺跡郡の各遺跡のピークは、
伊勢遺跡が1世紀末から3世紀初頭
下長遺跡は2世紀半ばから3世紀末
下鈎遺跡(縄文前期から続く複合遺跡)は1世紀初頭と2世紀後半の二つにピークがある
また鏡に関しておもしろい話が書いてありました。
遺跡の一角に勾玉や粉砕された銅鏡が埋めてあるのですが、鏡を割る行為はそれを所有していたシャーマンの霊力を封じる行為なのだそうです。これは天日槍が鏡山に鏡を埋めたという話と奇妙に重なりますね。
※ビジョンについての追記ですが、巫女姫が埋葬された大きな理由は以下の二つでした。
1 巫女王の公式の死をもって、当時きな臭い空気が漂い始めていた近江一帯の騒乱の責任をとることで、民を守り、国としてのダメージを最低限にしようとした。
2 巫女王の死を要求する一部勢力から彼女の身を守るためでもあった。
※ 2/4 訂正
守屋市を守山市に訂正。ご指摘くださった方、ありがとうございます。
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以下の教授のコメントは、伊勢遺跡で新たな発見より抜粋
◆石野博信 徳島文理大教授
「壁の補強に焼成れんがを使い、床の粘土を焼いて防湿・保温性を高めた建物と考えれば、金属工房が想定されるが、金属片などの遺物は出ていない。高度な建築技術を駆使した今回の建物跡は、邪馬台国が出現する前の時代に、朝鮮半島などとつながりを持つ巨大な勢力が近江にあったことを示している」
◆芦屋市教委文化財課森岡秀人主査
「大陸の技術系譜が当然考えられる建物で、伊勢遺跡が単に大きな弥生集落だったのではなく、当初より祭祀空間として特別な役割を担っていたクニグニの共同利用場であったことを想像させる。日本海ー北近畿ルートの中での近江の占める歴史的位置の高さが立証された」
◆宮本長二郎 東北芸術工科大教授
「今回の建物跡には、中国からの技術移入と考えられる最新技術のれんがが使用されていることや、伊勢遺跡が吉野ケ里遺跡と同規模の祭場域を持っていたことからも、当時、最大規模のクニの一つだったことが想定できる。屋内棟持ち柱や焼床跡などから特殊な祭礼を行う祭殿だったことをうかがわせる」
2007年1月31日
「古代幻視3 神功皇后」に続く
◆古代幻視シリーズ◆
古代幻視シリーズはレイライン・カテゴリに含まれますが、連載ものになっているので、上から順番に読んでいくと分かりやすいです。
・シャーマニズムと裏付け調査 2007年1月27日
・簡単古代史(記紀)入門 2007年1月28日
・古代幻視 1 饒速日尊 2007年1月28日
・古代幻視 2 滋賀県鏡山と伊勢遺跡 2007年1月31日
・古代幻視 3 神功皇后 2007年2月2日
・レイライン7 出雲の御祭神 2007年1月24日
・プロメテウスの火 2007年2月6日
レイライン・カテゴリの中の鹿島ー諏訪、出雲、そして縄文に関連のある記事をまとめてあります。
◆鹿島ー諏訪、そして縄文◆
★レイライン01&02
・鹿島神宮 1 諏訪大社と縄文神 2006年10月23日
・鹿島神宮 2 鹿島ー諏訪レイライン 2006年10月28日
★レイラインシリーズ1-8&
・レイライン1 鹿島神宮と縄文ライン1 2006年12月5日
・レイライン2 鹿島と香取 2006年12月7日
・レイライン3 パワースポットの謎1 大地の力 2006年12月17日
・レイライン4 パワースポットの謎 2 縄文神の正体 2006年12月19日
・レイライン 5 パワースポットの謎 3 余談だけど運気アップのコツ 2006年12月24日
・レイライン 6 パワースポットの謎4 御祭神もいろいろ 2006年12月29日
・レイライン7 出雲の御祭神 2007年1月24日
・レイライン8 縄文ライン 2007年2月18日
・プロメテウスの火 2007年2月6日
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