ターニングポイント２ 原動力
完全に二足歩行ができるようになった原人・旧人ホモモビリタスはやがて母なる大地アフリカを飛び出し、ユーラシア大陸全体に広がっていった。かれらは７００万年前に草原に降り立った頃より体も大きく、石器を手に新しい世界をどんどん切り開いていった。この一連の動きをアウト・オブ・アフリカと呼ぶ。
そして次のターニングポイント。
２０万年前、アフリカにいた旧人ホモモビリタスが進化し、私たち人類の直接の祖先である新人クロマニョン人が誕生した。新人と旧人ホモモビリタスの違いは脳の容量だった。旧人ホモモビリタスの脳は草原に降り立ったその瞬間から旧人ネアンデルタール人にたどり着くまで、ひたすら同じ形状のまま大きくなっていった。
ところが新人の脳はネアンデルタール人よりも小さいのだ。だが決定的な違いはその形状だった。ネアンデルタール人の脳はチンパンジーととてもよく似ていて、前後方向に大きいという特徴を備えたまま全体として大きい。これに対し、新人の脳は現代の私たちの脳の形状そのままだ。
この脳の形状の違いは何を意味するだろう？
脳には言語・運動・感覚・思考・意識・記憶・創造力をつかさどるさまざまな機能があるが、それまで使っていた部分を使用しなくなったり、新しい機能をより多く使うなど、脳の働きそのものが大きく変化した結果、構造が変わり、頭蓋骨の形状変化をもたらしたのだ。
脳の構造が飛躍的に変化した結果、新人の行動は大きく変わった。
特徴的なのは道具の作り方だ。旧人たちは、獲物を倒すための道具として石を割り、尖った形や丸い形の石器を作った。あくまで直接的なイメージの産物だ。
ところが新人たちは違った。
用途と目的を考え、それにピッタリな完成図をイメージし、そのための部品として石を割る。石を割ることが即、完成につながるのではなく、あくまで全工程の一部でしかない。
こうした一連の作業がさらに脳の進化を加速させたのだろう。
やがてかれらはユーラシア大陸はもとより、海路を開拓し、極寒のシベリアからアラスカを通ってアメリカ大陸へと広がってゆく。これが第二のアウト・オブ・アフリカだ。こうした流れの中で、先にユーラシア大陸に広がっていた旧人たちは歴史の表舞台から消えていった。
私たちの直接の祖先はなぜ彼方を目指したのだろう？
なぜモノづくりにチャレンジしたのだろう？
なぜ未知の世界、遥かな海を越えようとしたのだろう？
脳が変化して、賢くなったから？
いや、きっとそうじゃない。
なぜなら試行錯誤とチャレンジの結果、脳の構造的進化が起きたと考えるほうが自然だからだ。
空が飛びたい。
そして海から陸に上がった仲間たちの一部は鳥になった。
だとしたら、ある時、かれらの誰かが夢を見たのかもしれない。
彼はそれを熱く語り、試行錯誤しながら新しい道具を創ろうとしたのかもしれない。
そして最初の道具が彼らを変えた。
それを見て、次から次へモノづくり熱が伝播していったのかもしれない。
人を動かす原動力は何？
それは尽きることのない希望。
そして遥かな時を経て、舞台は現代へ移る。
2012年2月24日
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