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サハラ・レクイエム 1

 突然むかし書いた短編小説をアップしました。
 今頃どうしてって? このところ忙しくて新規の記事が書けないのもあるけど、まあ・・・・ひと言でいうと、カミングアウトですね。
 いま読むと、いろいろ粗も見えて恥ずかしいんですが、まあいいや。
 若かりし頃の思い出(?)というわけで、五夜連続のお届けです。
 興味の無い方はさらっと流してくださいね~。
 

『サハラ・レクイエム 1 』
 

 1 噂   
「亡者たちのキャラバン?」
 高杉真一は浅黒く陽焼けした顔にいぶかしげな表情を浮かべて聞き返した。
 テーブルをはさんで向かい側にすわっていた山崎隆夫は高杉の反応を楽しむように、ニヤニヤしながらビールジョッキに手を伸ばした。
「そうよ。こいつは最近聞いた話なんだがな、なんでもサハラの西、ちょうどモーリタニアからマリにかけてのあたりに、そいつらがうじゃうじゃと出るんだそうだ。――ハルマッタンとともに、亡者たちのキャラバンがやってくるってな」
 

 山崎は真顔で言った。
 一瞬、高杉はぽかんとして山崎を見つめた。
 そこは新宿通りに面した雑居ビルの一階にある居酒屋だった。忘年会帰りに流れてきたサラリーマンや学生でごった返す店内は蒸し暑く、白い割烹着を着た威勢のよいウェイターがビールジョッキをいっぺんに八つも持って忙しそうにテーブルに運んでいる。酔っぱらった客のにぎやかなおしゃべりに混じって、流しっぱなしの有線放送から聞こえるハスキーな声の黒人歌手の歌うホワイトクリスマスの甘いメロディーが耳に心地よい。バイク雑誌の編集長をしている山崎と一緒の時は、たいていこの店で飲むことが多かった。
 

 高杉は、どこかひょうきんな山崎の丸い顔を見ているうちに、急におかしくなって笑い出した。
「まさか」
 ハルマッタンとは、二月から三月にかけて、サハラ砂漠から吹く乾いた風のことだ。アフリカ大陸の北西部に位置するモーリタニアでは、このハルマッタンが吹くと比較的過ごしやすい冬が終わり、日中の気温がかるく四十度を超える過酷な夏がやってくる。
 山崎は通りがかりのウェイターにビールのおかわりを頼んだ。
 

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