自立
つい先日、中二の娘が学校から帰ってくるなり言った。
「今日、先輩と地稽古をやったんだけど、こわかった」
娘は中学で剣道部に所属しているんだけど、女子は5人しかいないんだよね。
「こわかった?」
「うん。先輩は迫力があるんだもん。手加減して当てないようにするって言ってくれるけど、こわくて打ち込めなかった」
なるほど。練習相手の先輩たちはみんな男子だし、背も高い。おまけにかれらはいずれも地区大会で毎回個人優勝とか準優勝しているような実力なんだよね。中学にはいってから剣道を始めた娘にすれば、そのギャップは大きいんだろうなあ。
「こないだ試合のときに審判の先生が、男子と練習すると強くなるって言ってたけど・・・」
「そうか。んじゃ、強くなれるチャンスじゃない」
「・・・・でも動けないんだもん」
ああ・・・そうか。
渦中にいる本人にしてみれば、理屈抜きに怖いものはこわいんだよなあ。
ふといまは大学生になる息子がまだ小学校の一年生だった頃を思い出した。
当時幼い息子をつれて、よくトライアルパークにバイクを乗りにいっていた。わたしたちがトライアルバイクに乗っている傍らで、息子もPW50という子供用のモトクロッサーで遊んでいたんだよね。
息子が小学校一年生になったとき、はじめてキッズレースに出場することになった。
子供のレースって、本当にどきどきするんだよね。自分が走るぶんにはどうってことないんだけど、子供が出るとなるともう心配でたまらないの。なんせ50ccとはいえ、バイクはバイク。転倒して打ち所が悪ければ大怪我するし。
そうこうしているうちにキッズクラスの選手がコース上に並び始めた。息子もダンナに付き添われてコースにはいっていった。親が付き添えるのはここまで。大人たちがコースからでるのを待って、フラッグが振られた。
一斉に甲高いエンジン音が鳴り響き、バイクが走り始める。
第一コーナーの手前で、他のバイクと息子のバイクが軽く接触した。次の瞬間、息子のバイクはコントロールを失って、コース脇の土手に斜めに突っ込んだ。
ぶつかった拍子に息子はバイクから投げ出された。
頭の中が真っ白になった。
夢中で息子のところに行こうとするわたしをダンナがとめた。何すんのよっ!! と思って振り向くとダンナが言った。
「だいじょうぶだ」
「でも・・・・!」
「いいから黙って見ていろ」
係員が息子に駆け寄って、走れるかどうか確認した。
どうやら走れるらしい。
息子はふたたびエンジンをかけると、出だしの遅れを取り戻すように混戦のさなかに戻っていった。
「モトクロス、弁当と怪我は自分持ち」という言葉がある。
それだけモトクロスには怪我がつきものだって意味なんだよね。
それは最初からわかりきった話で、もしわたしが飛び出してゆけば息子はリタイヤを余儀なくされる。たとえ子供であっても、それはけっして息子の本意ではないんだよね。レースが始まってしまえば親は黙ってみているしかない。
それは人生そのものだと思った。
この先息子が成長するにつれて、幼い頃のように親が手助けしてやれる事はどんどん減ってゆくだろう。
そしていつか親の手元から離れてゆく。
あのときはじめてわたしは子供には子供の人生があるのだということを身をもって知った。
涙が止まらなかった。
轟音が響くレース場のなかで、わたしは泣きながら息子のちいさな姿を目で追った。ただ無事に終わってほしい。それだけだった。
レースが終わって、けろっとした顔で息子が戻ってきた。
「お腹すいた」
おまえな~わたしの顔を見た瞬間それか(苦笑)。
あれから12年の月日が過ぎた。
あのときの成績は忘れたけど、息子が転んだシーンはいまでもよく覚えている。
それは子供とのかかわりのなかで、迷ったり悩んだときにふと思い出す。
いずれ親は先に死ぬ。
それでも彼は彼のレースを続けなきゃならないんだよね。
だとしたら親はなにを残してあげられるだろう?
「お母さん」
娘がふいにニコニコして言った。
「うん?」
「あしたの昇段試験のお弁当、おにぎりにしてね。あとタコ焼き忘れずにね。お友達と交換するから」
案ずるより産むがやすしか。いまはまだ悩むより食い気なのね(笑)。
2007年6月17日
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Comment
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キョーコさん、おはようございます。 ダンナ様、かっこいいですね。 思わず、またまた、コメントさせていただきます。 それにしても、ドラマチックな子離れシーンですね。 とまらない涙、ってのも、こころの情景が、広く深く、しみわたります。
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こんにちは、初めて書き込みます。 今日の日記を読んで、最近聞いた話とシンクロしたので書きたくなりました。 童話を読み解き自分の深層心理を知る会で、ある方が 「親は、子どもが10歳までは子どもを育てるのに費やし、 それ以降は子どもが20歳になるまでに子離れを完了させるのに費やす。」 とお姑さんに教わったそうです。 深いなぁ・・・・・今日の話もよかったです。
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ホントに素敵なダンナ様ですね^^ 時々、母親は「ちょっと冷たいんじゃない?」と父親を睨み付けますが 父親には父親としての見る目、思い遣る目があるんだと思います。 これから大変な世界に飛び出す子供達を心配せずにはいられませんが、 父親の息子を見る正しい目は、間違いなく息子さんを正しい道へ 向かわせるでしょう。うん、そう思います。 キョーコさんもダンナ様に甘えていればいいのかもね?^^ え?もう甘えてしまっている? こりゃまた失礼致しました~ チャンチャンチャカチャカ♪・・・(退場)
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糠漬け初心者 さん ありがとうございます。 悔しいけど、かっこよかったです(笑)。 あのとき黙って見守る姿勢をダンナからおそわりましたね。 今日はライブドアの調子が悪かったみたいですね。 気になさらないでね^^
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アーリンさん こちらでははじめまして。 >「親は、子どもが10歳までは子どもを育てるのに費やし、 それ以降は子どもが20歳になるまでに子離れを完了させるのに費やす。」 すっと心にはいってくる言葉ですね。 日々の生活をふりかえると納得です。息子は来年二十歳なのであと一年です。彼から本当にいい時間をたくさんもらったなあとしみじみ思います。
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えぬえっちさん ありがとうございます。 昭和一桁生まれなんじゃないのと思うほど頑固な奴なんですが、こういうところは素直にすごいやっちゃなと思います。 >キョーコさんもダンナ様に甘えていればいいのかもね?^^ え?もう甘えてしまっている? うふふ。うちじゃ可愛い女なんですよ。わたしは^^ あ? 信じてませんね(爆)。