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コーヒーブレイクが人生を変える

 
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脳科学と心理学に精通し、16年間で1万人以上の相談にのってきたシャーマン。「信じる力は、世界を変える」がモットー。自分自身を信じる力・愛を受け取る力を育てる方法、激動の時代を乗り切る極意を教えている。 著書「なぜ眠り姫は海で目覚めるのか? 超ネガティブ思考を解除する3つのメソッド
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「マインドフルネスって知ってる?」
 

駅の改札口を出たところで友人が言った。
「うん? いま流行っているよね」
「うん。雑誌で特集していたんだけど、あれって効果があるのかなあ」
 

そう言いながら友人はカバンから茶色い紙袋をとりだした。昨日の雪が凍って、街は冷蔵庫の中みたいに冷えきっている。紙袋の中をのぞくとコーヒー豆のパッケージが入っている。
「はい。美味しい豆をみつけたから」
「わあ……ありがとう」
 

じつはわたしは珈琲にはちょっとうるさい。
といってもインスタントコーヒーは絶対に飲まないとか、自家焙煎じゃなきゃダメだとか、そういうこだわりは一切ない。
それどころか、ひとさまが入れてくださるなら喜んでいただく。
 

え? それの、どこがうるさいかって? 
 

じつは自分が珈琲をいれるときは豆のパフォーマンスを最大限に引き出して美味しく入れたいのだ。たとえば仕事が佳境にはいると1分でも時間が惜しい。気持ちは焦るし、頭の中はストレスマックス。そんなときは慌てず騒がず、ハンドドリップで珈琲をいれる。
 

ドリッパーにペーパーフィルターをセットして、ひとりぶんの珈琲の粉を入れる。沸騰したお湯を注ぎ口が細くなっているドリップポットにいれかえて、ひと呼吸おく。こうすると温度が90度くらいまで下がるからだ。適温になったお湯を粉の上にほんの少量、たら~っとまるくそそぐ。するときめ細かな泡が立ってきて、茶色い泡がみるみる膨らみはじめる。
 

1秒、2秒、3秒……。
 

やがてぽたぽたとサーバーの底に茶色いお湯が落ちてくる。
それまで無味乾燥だった部屋に珈琲の香りが立ち込める瞬間だ。
ここでちょっと蒸らしタイム。
 

(あの書類のデータはどこにあったっけ?)
 

ふと気持ちがコーヒーの泡からそれる。頭の中の雑多な情報が意味もなくこぼれ始める。
そこに、気づく。
 

(あ、気持ちがコーヒーからそれている。OK。データのことを気にしている)
 

目の前の泡の動きに注意を戻す。
 

20秒ほどたったら蒸らしタイムは終了だ。
細く、まるく、丁寧にお湯をそそぐ。
泡が盛り上がり、やがてへこむ。
お湯をそそぐ。泡の動きに注意を向ける。
この繰り返しだ。
 

まるで息を吸うように泡の層が盛り上がり、息を吐くようにゆっくりとへこんでゆく。
珈琲の呼吸に合わせて、細く、丁寧にお湯をそそぐ。
たったこれだけのシンプルな作業に集中する。
 

するとさっきまで頭の中で目まぐるしく高速回転していたエクセルやらパワーポイントが不意に止まる。
コーヒーから立ちのぼる香りが空間を包んで、ぽたりぽたりと落ちてゆくコーヒーのしずくだけが時を刻む。コーヒーの呼吸に耳を傾ける。
 

そういう状態のときはお湯を落とすタイミングや量がまるで自分のことのように身体でわかる。
 
そして一瞬、時間が止まる。
 
たとえるなら恋する二人がお互いの呼吸を感じて、「世界はふたりのもの」という満ち足りた精神状態になるのに似ている。
 

お湯がぜんぶ落ち切る前にドリッパーをはずして、いれたてのコーヒーをカップにそそぐ。
お湯の温度、ドリップする速度、タイミング、すべてがばっちりはまると雑味がない、まろやかなコーヒーに仕上がる。
 

丁寧にコーヒーを入れる作業はマインドフルネスのレッスンとよく似ている。
マインドフルネスは2007年にGoogle社が研修プログラムに取り入れたことで一躍脚光を浴びたので知っているひとも多いだろう。
 

マインドフルネスの源流はじつは日本人にはなじみが深い仏教だ。
日本では大晦日の「ゆく年くる年」で除夜の鐘が流れるぐらい仏教文化が生活に根差している。
実際、多くの日本人にとって観光地にもなっている寺社仏閣が宗教施設だという認識はないし、仏教のエッセンスに富んだ茶の湯や座禅などもあたりまえの文化だと認識しているひとが大半だろう。
 

いま流行りのマインドフルネスは仏教から宗教的な匂いを取り去った、happyになるための普遍的な心の持ち方だ。
わたしたち人間は過去の後悔、未来の心配に心を奪われて、つい当たり前の日常をおろそかにしたり、目の前の出来事に集中できなくなったりする生きものだ。
 

これに対して、マインドフルネスな心というのは、いまこの瞬間に自分が感じていることや考えていることに気づいていて、なおかつ目の前のことに集中できる状態だ。
 

たとえばコーヒーを入れている最中に、このあとの予定が頭の中でちらついていて、お湯をそそぐこと、泡の動きをみることに集中できていないと気づいたら、するりとコーヒーの泡の動きに意識を戻す。
 

あるコツを身に着けて練習してゆくと、やがて誰でもマインドフルネスな状態でコーヒーをいれられるようになる。これは茶の湯にも通じる。
 

もともと茶の湯や座禅など日本には長い年月をかけて磨き上げられてきたマインドフルネスのエッセンスが日常生活にあふれている。言ってみれば、マインドフルネスは逆輸入の日本文化だ。ただあまりにも当たり前すぎて私たちがその価値に気づいていないだけなのかもしれない。
 

わたしは友人からもらったコーヒー豆を取り出した。
いい香りだ。
 

「マインドフルネスって効果があると思う?」
 

きのうの友人の言葉を思い出した。
うん。効果があると思う。
 

すくなくともわたしにとっては香り高く、味わい深いコーヒーをいれるための大切なエッセンスなのだから。
 

2018年2月24日
 

【ブログ内参考記事】
わたしがマインドフルネス座禅瞑想を教えるようになった理由
マインドフルネスの極意は骨センサーを育てること

 

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