５　本当に欲しいものは？　実践　夢ワーク「５年前のあの日の悪夢をめぐる冒険②」～目覚めたら世界が変わる？　夢使い入門編　 」

さて悪夢を使って、最悪なセルフイメージを書き変える実践編２回めです。
ストレスフルな状態になると、5年前の失敗の悪夢を見るベイリーの物語の続きをみていきましょう。
↓↓↓
 

「・・・夢・・・か」
 

ベイリーは大きくため息をつくと、ベッドに寝転がった。
不意に耳元で声がした。
 

「夢なら、変えることができるよ」
 

「え？」
 

枕元で少年がにっこり笑って、ベイリーの顔を覗き込んでいる。
 

「うわわ！！」
ベイリーは飛び起きた。
 

少年はぴょんと飛びあがると、窓のさんに腰かけた。
緑色のとんがり帽子に、全身緑色の服。
まるでピーターパンだ。
 

ベイリーが唖然としていると、少年が話し始めた。
 

「失礼だなあ。ピーターパンじゃないよ。
僕の名前はロン。
見習い魔法使いさ」
 

「見習い魔法使い？？？」

「うん。君が悪夢で苦しんでいるのを見かねて、助けに来たんだ」

「助けにきたって・・・」

「もう悪夢はこりごりだろ？　悪夢を見なくする方法があるんだ」

「そんなことができるの？」

「もちろん」
 

ロンは身を乗り出した。
 

「夢の中で、君は何を感じる？　ベイリー」
「なにって・・・後悔と絶望かな」
 
「絶望と後悔？」
 

「ああ。ぼくはあのとき逃げたんだ・・・信じてくれたひとだっていたのに、彼らの信頼を裏切って・・ああ！」
 
ベイリーは頭を掻きむしった。
 

「君はちゃんと生き延びたじゃないか」
 

「え？」
ベイリーは顔を上げた。
 

「君はあの辛い状況でも死を選ばなかった。
君はたしかに逃げたけど、でも自分を守るための精一杯の行動だったんだろ？
あのままあそこにいたら、君の心は完全に壊れてしまったかもしれない。
5年前の君は勇者じゃないけど、自分の心の限界まで踏ん張って、力尽きて逃げたんだと思うよ。
逃げたのは、生き延びるための緊急回避ってやつだね」
 

「でも・・・・ぼくがもっと強ければ、あの場に踏みとどまることができたかもしれない。
逃げるなんていう卑怯な真似はしなかったかもしれない。
・・・そう思うと、自分は最低の人間だって思えてくるんだ。
だから恋人のシャーリーも離れていったんだ」
 

ベイリーはがっくりと肩を落とした。
 

「5年前の君は会議の場から逃げ出しした。
君はそんな行動をとった自分を最低だと思っている。
人生最悪の日だ、と。
そりゃ恋人にはふられるわけだ」
 

ロンは窓のサンに立ち上がって、片足立ちでバレリーナのようにその場でくるりと回った。
ベイリーは無性に腹が立ってきた。
 

「そうさ！
ぼくのしたことは最低さ。
でも、他にどうしようもなかったんだ。
頭が真っ白になって、気が付いたら橋の上だった。

同じ職場のシャーリーは最後までぼくの味方になろうとしてくれていたのに、ぼくは・・・そんな彼女の気持ちを踏みにじったんだ。
それでつい・・・あんなひどい事を言ってしまった・・・。
本当は謝りたかったんだ・・・。
でももう遅い・・・」
 

ベイリーはその場に力なく座り込んだ。
ロンぴょんと窓のさんから飛び降りると、ベイリーの肩にそっと触れた。
 

「ねえ、ベイリー」
それはどこか深いところから響くような、不思議な声だった。
 
「あのとき、夢の中で会議室から逃げたとき、本当は何をおそれていたの？」
 

「え・・・あのとき？」
 

ベイリーは悪夢を思い出した。
夢の中で彼はもやもやとした、言いようのない恐怖から必死で逃げようとしていた。
 

「わからない・・・ただ怖かった」
 

「じゃさ、それと似たような怖さを味わったことはない？」

「似たような怖さ？」

「うん。ささいなことでいいんだ。たとえば子どもの頃とか、何かない？」
 

ベイリーはしばらく考えていたが、ふとある声がよみがえった。
 

「そういえば、子どもの頃、ぼくは親父がすごく怖かった」

「君のパパ？」

「うん。すごく厳しい親父で、ぼくが失敗すると、いつも怒られた」

「どんなふうに？」

「だからおまえはダメなんだ・・・って」
 

ベイリーはそういうと頭を抱えた。
 

「親父はいつもそうだった。
ひとつ年上の兄貴は優秀で、親父のお気に入りだった。
ぼくも兄貴が大好きだった。

でもぼくは、何をやっても兄貴にはかなわなくて.
だから、いつのまにかチャレンジが怖くなったんだ。

親父はそんなぼくに期待しなくなった。
でも何かすれば、また失敗する。
失敗すれば、また叱られる」
 

「叱られるのが怖かったの？」
 

「うん・・・叱られるときの、
親父の、あの憐れむような顔を見るのがつらかった。
ぼくには居場所がないんだ・・・」
 

「居場所？」
 

「親父はダメ人間のぼくのことなんて、愛していないんだ」
 

ロンの目がまるくなった。
 
「本当にそう思っているの？」

「どうせ何をやっても愛されないんだ」

「ベイリー・・・」

「ぼくはいつも逃げてばかりだ」
 
ベイリーは力なく笑った。
 

「でも・・・親父のあの顔をみるくらいなら、
また何かにチャレンジして、
失敗して、
親父に見放されるぐらいなら、
逃げたほうがましなんだ！」
↑↑↑
 

さてここでいったん解説です。
ベイリーにとって、5年たったいまも悪夢を見るほど辛かったのは、「逃げた」という事実でした。
 

では逃げることによって、ベイリーは本当は何を守ろうとしたのでしょう？
ここ、いちばん大事なポイントです。
ちょっと考えてみてくださいね。
 

考えてもらっている間にどんどん解説を進めましょう。
視点を変えて、逃げたことのデメリットはなんでしょう？
 

それはセルフイメージの低下です。
ベイリーは会議の場で謝罪する機会を失い、
別れた恋人に対しても、
申し訳なかったという気持ちを5年間持ち続けています。
 

ベイリーは5年前の出来事を記録した古いビデオを何度も巻き戻しては再生して、当時の辛い記憶を心の中で再現しているのです。
そのたびに味わっているのは、後悔と罪悪感です。
具体的に焦点を絞り込むと、「申ししわけなかった」という気持ちを繰り返し味わっているんです。
 

では5年前の出来事に関して、ベイリーが具体的に望んでいるのはなんでしょう？
 

それは、
「申し訳なかった」
と、当時の関係者に伝えることです。
彼は逃げたことによって、その機会を失ったままだからです。
そのことが5年間、彼を苦しめ続けているわけです。
 

そして先ほどの質問、覚えていますか？
「逃げる」ことでベイリーは何を守ろうとしたのか？
言い方を変えると、「逃げる」ことを選択した根本動機はなんでしょう？
 

はい。答えは、父親の愛情を失いたくなかったからです。
じゃ、彼の根本の願いは？
それは、「父親から愛されたい」です。
 

夢ワークで問題を解決していく前段階として、
夢の中で感じた感情や行動の根本動機を見つけることがポイントです。
 

そのための便利な質問は以下の６個。
↓↓↓
 

「そのとき、なにを感じていたの？」
「本当は何を恐れていたの？」
「過去に似たような出来事や、似たような気持ちになったことはない？」
「もし思い当たるなら、そのときに言われて傷ついた言葉は？」
「過去のその出来事で、本当に欲しかったのは何？」
「悪夢の中で、本当はどうなって欲しい？　あるいは本当に欲しいものは何？」

 

ポイントが整理されたところで、
さてもう少し物語の続きをみてみましょう。
↓↓↓
 

「ねえ、ベイリー。
誰にだって失敗はあるよ。
辛い過去のひとつやふたつ、持っているよ。

でも過去の出来事そのものは変えられないんだ。
ただね、その出来事に対する評価は自由に変えることができる。

ほら、映画や小説だと、最初はダメなヤツだった主人公が、試練の中でどんどん変わっていくだろう？

現実も同じさ。
5年前に起きたことは変えられないけど、一生そこにとらわれ続けて生きるのか？
人生の糧として、前を向いて生きるのか？

君は5年前の事件で打ちのめされ、いまもそのことにとらわれて、冴えない人生を送っている。
でも観客はみんな、君がこの試練を乗り越えて、もういちど立ち上がるところが見たいんだ」

 

ベイリーの顔がほんの少し明るくなった。

「ぼくにもできるかな・・・？」

「もちろん。さあ、いまから君の悪夢の中に潜りこむよ！」
↑↑↑
 

今日はここまでです。
ベイリーの本当の気持ちがあぶりだされたところで、次回はいよいよ悪夢の中に入り込みます。
 

押さえておいて欲しいのは、
↓↓↓
①ベイリーのいちばんの望みは、父親に愛されること。
②5年前の出来事にかんして、具体的に関係者に「申し訳なかった」と伝えること。
 

上記２点を叶えるために、次回はロンと一緒に夢の中にはいってゆきます。
ではまた次回に！
 
2020年12月11日
 

【ブログ中参考記事】
・『目覚めたら世界が変わる？　夢使い入門編』 １　夢の効用　私がピンチに強いわけ
・『目覚めたら世界が変わる？　夢使い入門編』 ２ 実践　夢をコントロールする方法　怖い夢
・『目覚めたら世界が変わる？　夢使い入門編』３ 実践 夢をコントロールする方法 　夢からアイデアをもらう
・夢解きのコツ　その２
・４　目覚めたら世界が変わる？　夢使い入門編　 実践　夢ワーク「５年前のあの日の悪夢をめぐる冒険①」
・５　本当に欲しいものは？　実践　夢ワーク「５年前のあの日の悪夢をめぐる冒険②」～目覚めたら世界が変わる？　夢使い入門編　 」
修羅場の向こうにある景色　６　目覚めたら世界が変わる？　夢使い入門編　 実践　夢ワーク「５年前のあの日の悪夢をめぐる冒険③」
 

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